マニュアルとは?作成の必要性と目的、手順書や説明書との違いも説明
マニュアルとは?作成の必要性と目的、手順書や説明書との違いも説明
仕事上のタスクや、機密情報などルールに沿って慎重に管理すべき事柄を、適切に処理する際に必要なのが業務マニュアルです。手順やルールなど、業務に関するさまざまな情報をまとめたものですが、マニュアルを作成する目的や正しく運用するためのポイントなどは意外と把握しづらいという側面もあります。
そこで今回はマニュアル作成の意義や、手順書・説明書との違いについて解説しつつ、実際にマニュアルを活用することのメリットやうまく運用するためのヒントもご紹介します。
マニュアルとは?
マニュアルとは作業の手順や流れ、システムやツールの操作方法などを体系的にまとめたものです。特にビジネスにおいては、さまざまな業務を円滑に遂行するために策定されています。
事務的な処理の流れや新人研修時の基本的な業務知識、作業フローや仕事を進める上での考え方など、さまざまな情報をまとめたものがマニュアルです。業務のプロセスを理解して個々が一定の基準のもと仕事を進める上で必要とされています。
マニュアルと手順書、説明書の違いは?
マニュアルと同様に業務の流れや作業手順、ツールの操作方法を説明する書類として用いられるのが「手順書」や「説明書」といった書類です。一見同じようなものにも見えますが、これら3種には役割などの違いがあります。
手順書
手順書とはSOP(標準作業手順書)や作業標準書などとも呼ばれる書類で、作業ごとの細かなフローや工程など、より細かな流れに焦点を当てたものです。
手順書には「業務の進行度合いや完成度のクオリティを組織内で標準化する」という役割があり、より広い視点で業務に関するさまざまな情報をまとめたマニュアルとは、厳密には異なります。
説明書
説明書はツールや作業用機器、ソフトウエアなどの仕様や使い方といったオペレーションに関する内容説明を行うための書類です。
例えばパソコンやスマートフォンの購入時に付属している取扱説明書などは、機器の操作方法や仕様、トラブルシューティングやQ&Aなどを細かく説明する内容となっています。
マニュアルは「作業にまつわる手順や決まりごと、知識などを総合的にまとめた書類」で、手順書や説明書は「より細かな領域の操作方法や業務フロー、エラーやトラブルへの対処法を詳しくまとめたもの」と理解しておくと良いでしょう。
マニュアル作成の目的
マニュアルを作成する主な目的には、「業務品質の統一化と向上」「社員教育の効率化」「業務知識の共有」の3つが挙げられます。
業務品質の統一と向上
従業員がマニュアルから業務の手順や判断基準を読み取れるようになれば、個人の能力の差にかかわらず一定レベルの品質で業務を行えるようになるでしょう。これにより業務の属人化を防ぐことができ、ミスの防止や品質向上にもつながります。
社員教育の効率化
マニュアルを作成することで、会社としての業務の進め方が標準化されます。マニュアルは、社員教育時の教本としても役割を果たします。
マニュアルがあれば、業務中に不明な点があった時にもすぐに対応方法や解決策を確認できます。また、前任者から新任者に十分に業務内容の引き継ぎができていない場合や、新人教育に時間を割けない場合でも、マニュアルを活用すれば従業員自身で業務内容を理解できる可能性が高まります。
業務知識の共有
マニュアルの作成には、社内で明文化されていない業務に関する知識やノウハウを共有する目的があります。
具体的な例として下記のようなものです 。
●経験豊富なベテラン従業員が体得したコツ
●業務成績の良い優秀な従業員が心がけていること
●担当者間だけで引き継がれている業務手順
●未経験者から出やすい質問
このような周知されづらい業務知識をマニュアルに落とし込むことで、従業員一人ひとりの業務への理解促進や改善につなげられます。
さらに、充実したマニュアルに沿って業務を行うことでミスが減るため、従業員の業務に対する自信や達成感を高めることができるでしょう。
加えて、スムーズに業務が進むことで時間に余裕が生まれると、業務効率の向上や業務改善にも取り組めるようになり、仕事へのやりがいも高まる可能性があります。適切なマニュアルの運用は、従業員のやる気向上というメリットにもつながるでしょう。
マニュアルの作成が必要とされる理由
どのような種類の業務においても、マニュアルの存在は必要不可欠であると言えます。なぜなら作業内容や成果物の基準を統一しなければ、個々の解釈やスキルに左右されて仕事の成果がバラバラになるおそれがあるからです。
例えば営業活動には、見込み顧客の獲得や提案資料の作成、商談の準備や契約のクロージングといったさまざまな作業が存在します。これらの作業を円滑に進める上で、マニュアルが存在しない場合「次にどう動けばよいかわからない」「優先順位付けができない」といった混乱を招きます。
そこで、各業務を進める上で「提案内容をシステムに必ず記録する」「失注したらその理由をメモしておく」といったマニュアルを設定しておけば、経験の有無にかかわらず各人が次にやるべきことや優先事項を管理者へ確認せずに進行できます。
マニュアルの作成にあえて労力を割き社内へ定着させることには、業務上のトラブルを予防しつつより円滑な業務遂行を実現するといった、確かな価値があるという考え方もあります。
マニュアルを作成するメリットとデメリット
マニュアルを作成するメリットとしては、新人への業務内容の伝達が行いやすくなることや、作業の属人化を防ぎやすくなることが挙げられます。
しかし、マニュアルの作り方を誤ると、かえって作業効率や生産性の低下につながる可能性もあります。
ここでは、マニュアルを作成するメリットとデメリットについて詳しくご紹介します。
マニュアル作成のメリット
マニュアルの作成には、主に「業務効率の向上」「属人化の防止」「教育コストの削減」などのメリットがあります。
どのような仕事でも個々人の理解度や経験、スキルの違いによって達成度に差が出るものです。マニュアルを作成することで業務における行動や判断基準が明確化され、不要な確認やチェック、指示待ちといった状態を回避できます。それにより業務の属人化も防ぐことができ、さまざまな作業の内容や進捗状況の見える化をして他者に共有することが可能になります。
加えて、マニュアルをきちんと組み立てることで教育コストも大幅に削減できます。入社したばかりの新人メンバーや他部署から異動してきた従業員は、新しく行う仕事の流れをつかむまでに時間がかかります。基本的な事項などはなるべくマニュアル上で説明しておくことで、よりスムーズに仕事内容を習得することができるでしょう。
マニュアル作成のデメリット
マニュアル作成のデメリットとしては「従業員が業務に対して創意工夫をしなくなる」「マニュアル作成に労力がかかる」などが考えられます。
従業員がマニュアルを重視するあまりに記載された内容しか対応せず、業務の質を向上させるような工夫を行わなくなる可能性が考えられます。加えて、マニュアルでは想定されていない緊急のトラブルなどが発生した時に、適切な対応方法がわからずに従業員が混乱するケースもあります。
効果的なマニュアルを作成するには、作業手順だけでなく業務の目的や全体像、目指すべきゴールなどがわかるように記載することが大切だと言えるでしょう。
また、一からマニュアルを作る場合は相応の労力と時間がかかります。マニュアル作成を担う部署などがない場合は、従業員が自分の仕事と並行して作成する必要があるため、通常業務が圧迫される可能性も考えられます。
マニュアル作成の3つのポイント
マニュアルには業務の手順を記載するだけでなく、業務の全体像を書くことで仕事の本質を伝えられるようになります。
ここでは、マニュアル作成の3つのポイントについてご紹介します。
5W1Hを明確にする
「5W1H」とは、Who、When、Where、What、Why、Howをまとめた略語で、「誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように」といった意味です。
5W1Hはビジネスにおいて、ほかの人に何かを説明する時に欠かせない視点だと考えられています。
業務マニュアルの作成時にも5W1Hを意識して盛り込むことで、内容をよりわかりやすく読み手に伝えられます。
例えば、「誰のためのマニュアルか」「いつ、どこで、何をするのか」「どのように業務を行うのか」などといったように、業務の順序をまとめていくと読みやすいマニュアルを作成できるでしょう。
作業・業務の全体像がわかるようにする
マニュアルを作成する時は特定の業務の方法だけでなく、各工程のプロセスやステップを流れに沿って図式化する「フローチャート」を入れると視覚的にわかりやすくなります。
例えば営業の仕事を簡易的なフローチャートにすると、「資料収集」→「アポイントメント」→「スケジュール設定」→「商談」→「見積もり」→「受注」などと表せます。業務の全体像が見えるようになると、その業務に関係するほかの部署との連携もとりやすくなるでしょう。
一目でわかる構成を目指し、難しい用語は使わないようにする
マニュアルは、従業員が特定の業務に対しての対処法を探す時にも使われます。その時に便利なのが、目次です。マニュアルの最初に目次をつけておくことで「何がどこに書かれているか」が明確になり、従業員が素早く確認することができるでしょう。
加えて、文字のみが並んだ状態では読み手を疲れさせる可能性があるため、誰が読んでも同じレベルで理解できるよう可能な限り一文を短く区切り、難しい用語を使わずに書くことが読みやすいマニュアル作成のポイントです。
マニュアルを社内へ定着させるためのポイントは?
マニュアルはあらゆる業務において必須と言っても過言ではありませんが、せっかく作成しても定着せず、社内で形骸化するケースも珍しくありません。そのような事態を予防するためには、どのような事柄に注意すればよいのでしょうか。
役割や意義を明確化する
「なんとなくあった方が良いので作る」のように、目的がはっきりしないまま作成されたマニュアルは、後々機能しなくなる可能性があります。「どんな目的で作るのか」「なぜ必要なのか」など、マニュアルの存在意義を入念に考えた上で作成することが重要です。
例えば「メンバー全員が営業利益を5%向上させるために、成績トップ者の業務フローをマニュアル化する」「ミスやトラブルを未然に防ぐために、業務手順をルール化する」のようにマニュアルの役割や意義を明確にして作成すれば、自然と必要性が認知され定着していくでしょう。
マニュアル作成の担当部署をあらかじめ決定しておく
マニュアル作成時によくあるのが、「誰がマニュアルを作成するのか」「誰がマニュアルの存在を広めるのか」といった担当者の問題です。他業務の片手間に作成されたようなマニュアルは、他者の視点が盛り込まれにくいことから不足点が発生しがちで、うまく機能しないことが懸念されます。
マニュアルを作成・管理する担当者や部署を事前に定めておけば、確実に情報をまとめて共有し、組織内に定着させることも可能になるでしょう。また業務内容や会社の掲げる目標など最新情報を常にマニュアルへ反映させる、現場とマネジメント層の双方の意見をすくい上げて作成するという点においてもマニュアル作成・管理担当を明確にしておくべきでしょう。
デザインを工夫する
社内のさまざまな業務の手順やノウハウをまとめたマニュアルは、相当な情報量になります。そのため、従業員がマニュアルを読んでいるうちに、理解が進まなくなるケースも考えられるでしょう。そこで、集中力を維持して読み進めることができるようなデザインにすることが大切です。
まず、文字の大きさやフォント、色使いなどを工夫し読みやすくします。加えて、強調したい部分には太字やアンダーラインを用いて情報の重要度を明確にします。
文章だけの表現は、読み手の知識や経験によっては理解しきれない場合があります。そのため図形やイラスト、写真など直感的に理解できるような表現を取り入れることが望ましいでしょう。適度に余白を設けたレイアウトも、読み疲れさせないコツのひとつです。
読みやすいマニュアルにするための具体的なポイントをまとめると、以下の通りです。チェックリストとして覚えておくと良いでしょう。
● 章のタイトルや段落の見出しを大きくしてメリハリをつける
● 図形やイラスト、写真を活用する
● 長文をやめ、箇条書きや表を用いて端的に表現する
● 強調したい部分には太字などを用い、視線を誘導する
● 余白を埋めすぎず、ゆとりを持たせる
マニュアルの作成や活用がうまくいかない原因
マニュアルの作成や活用がうまくいかない主な原因としては、「マニュアル作成にリソースが割けられない」「マニュアルの運用方法が整備されていない」「最新のマニュアルに更新できていない」といった3つが考えられます。
マニュアル作成にリソースが割けられない
マニュアル作成がうまくいかないケースの根本原因は、制作に必要な時間や人材といったリソースが十分に割けられないことにあると考えられます。
マニュアルを作成するには、担当者によって異なる業務の進め方の把握が必要です。そして、社内に散在する情報やノウハウのどれが最適であるかを精査し、誰もが理解しやすい表現にまとめることは簡単な作業ではなく、相応の時間が必要となるでしょう。
マニュアル作成にリソースをかけず、通常業務の片手間に取り組むようなケースでは、機能的な内容のマニュアルの作成は中々難しいでしょう。
さらに、各業務の担当者が協力的ではないケースもあり、マニュアル作成が難航する原因にもなります。
まずは上司から「マニュアル作成のためにリソースをかける」という方針を発信し、プロジェクトチームの立ち上げやスケジュールの明確化をはかることが重要です。社内全体が積極的にマニュアル作成に取り組めるような、体制づくりを心がけると良いでしょう。
マニュアルの運用方法が整備されていない
マニュアルの運用方法がきちんと整備されていないことも、失敗しやすい原因です。従業員がマニュアルをスムーズに活用できるよう、運用方法を工夫することが大切です。
マニュアルの運用を整備するにあたっては、まずマニュアルがどこに保管されていて、どのように閲覧するか、というマニュアルの所在を明確にすることが第一歩です。従業員が必要とする時に、すぐに読めるような環境を整えることが重要です。
加えて「マニュアルに記載されていない問題が起きた時にはどう対応するか」といった、イレギュラーな事態が起きた際の対処方法も記載しておくと良いでしょう。
最新のマニュアルに更新できていない
マニュアルは一度作成して終わりではありません。マニュアル作成の本来の目的は作成することではなく、日々の業務の効率化や品質向上、属人化の防止、社員教育への活用などです。それらの目的の達成のためには、マニュアルの作成後も適宜更新を行い、常に最新の内容を反映させる必要があります 。
更新する際はまず、従業員からのフィードバックを受け、マニュアルが現場でうまく機能しているかを確認します。実際に業務を行う従業員に「わかりにくい表現はないか」「ミスリードになっていないか」「初見でもスムーズに作業できるか」といった内容をヒアリングしてみると良いでしょう。
さらに、日々の業務を行う中で新しく発見したより良い方法や、想定外のケースに対処した時のノウハウなどをアンケートで募り、社内で共有するべき内容は反映します。
加えて、自社の商品・サービスの内容が新しくなった場合や、法改正や新たな規制の施行時など、業務にかかわる変化に応じて定期的に更新する必要もあります。
マニュアルの更新にあたっては、以下の点に注意が必要です。
●更新頻度のルールを決める
●更新した箇所を明確にする
●更新日時を漏れなく記載する
●新旧のマニュアルが混在しないよう、古いものを廃棄する
更新頻度は業務内容によって異なりますが、頻度が高すぎるとマニュアル作成の担当者の負担が大きくなることや、新旧のマニュアルが混在してしまう恐れもあります。反対に更新頻度が低すぎると、実際の業務内容と一致しないマニュアルになることが考えられます。まずは半年に1回程度の見直しを行うようにして、その後運用しながら自社にとって適切な更新ペースを整えていくと良いでしょう。
適切に更新し、常に最新の内容のマニュアルを運用するには、マニュアルの作成・管理を行えるITツールの活用も考えられます。
例えば、クラウド型のマニュアル作成・管理ツールであれば、インターネットを通じて複数人でマニュアルの編集や更新を行うこともできるようです。
マニュアルの活用に成功している企業の特徴
企業の中には、マニュアルの定着化や活用に成功している組織とそうでない組織が存在します。マニュアルの運用を成功させるには、どんな要素が重要なのでしょうか。
「暗黙知」を「形式知」へと変えることを目標に据える
マニュアル化のメリットについては先ほど説明しましたが、特に重要なのが「業務を標準化すること」「情報を明確化すること」です。
仕事にまつわる知識や情報は、言語化されていない知識である「暗黙知」と、すでに言語化されている知識「形式知」の2種類に大別されます。暗黙知は個人の経験や感覚といった主観的な要素で構成されることが多く、中には重要なノウハウであるにもかかわらず共有されていないものも存在します。
マニュアルの活用に成功している企業では、この暗黙知を組織内から極力減らし、仕事にまつわる大小さまざまなノウハウを形式知化することを目指している場合が多いようです。
例えば、普段の作業中に何となく心がけている時短テクニックなど暗黙知を、マニュアルの中に組み込むことで形式知化され、最終的に組織全体の生産性向上などにつながることが期待されています。
実際の業務で活用されることを意識する
作成したマニュアルが見過ごされる原因として考えられるのは「当たり前の内容しか書かれていない」「実態と一致していない」といったことです。そのようなマニュアルは参照する必要のない情報とみなされ、実際の業務で活用されることもなくなっていきます。
日々の業務を進める上でプラスになることを意識して、マニュアルに良いアイデアやテクニックを網羅していくことのルール化が、マニュアルの活用度を上げるポイントでしょう。細かなポイントまでをマニュアル上でフォローしておけば業務効率も向上し、余裕が生まれる分新たな気づきやアイデアが生み出されることもあるでしょう。
まとめ
今回は業務の遂行を円滑なものにするマニュアルについて解説しました。作成や定着化にはある程度の労力を必要としますが、マニュアルをしっかりと作り込むことで業務をより効率的に進めることができるためビジネスには欠かせません。
仕事上でやるべきことが見えにくくなっている場合や、マニュアルこそ存在するもののうまく活用できていない場合は、この記事を参考に改めてマニュアル作成へ取り組んでみてはいかがでしょうか。
パソナ日本総務部では、「マニュアル・取扱説明書制作」サービスを提供しています。お客様のさまざまなご利用シーンに応じて、業務マニュアルや保守・メンテナンス、施工工事に関するマニュアルなど、豊富な実績を基に幅広い分野に対応しています。
また、既存のマニュアルを「第三者目線によるわかりやすさ」を実現したマニュアルに進化させることも得意としています。
マニュアル作成や更新にリソースを割けず、お悩みの場合はぜひお気軽にお問い合わせください。